休業手当(労働基準法第26条)
麻布十番所在の鈴木基宏法律事務所、弁護士の鈴木基宏です。
新型コロナウィルス感染拡大防止のための自治体からの休業要請で休業を余儀なくされ、実際に休業した場合、従業員に休業手当を払わなければならないのでしょうか。
労働基準法第26条は、「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない。」として、休業手当を支払わなければならない場合を規定しています。
すなわち、「使用者の責に帰すべき事由による休業」と言えるかどうか、言えれば60%以上の休業手当を支払わなければならず、言えなければ休業手当を支払わなくてもよい、ということになります。
では、「使用者の責に帰すべき事由による休業」とはどのような意味なのでしょうか。
これについては判例があり、「取引における一般原則たる過失責任主義とは異なる観点をも踏まえた概念というべきであつて、民法536条2項の「債権者ノ責ニ帰スヘキ事由」よりも広く、使用者側に起因する経営、管理上の障害を含む」と最高裁は判示しています(ノースウェスト航空事件 最判昭和62年7月17日)。
つまり、単に使用者に(法的意味合いでの)過失があったか否かというのではなく、もっと広く「使用者側に起因する経営、管理上の障害」も使用者の責に帰すべき事由による休業となる、ということです。
これを実際の事例に当てはめると、
新型コロナウィルスの蔓延→
その拡大防止のため自治体から休業要請が出た→
休業を余儀なくされた
ということですと、どの段階においても使用者側に起因する経営、管理上の障害はなさそうですから、休業手当は(法的には)支払う必要がない、ということになります。
これに対し、
休業要請が出ていなかった業種の会社で、
新型コロナウィルス感染防止対策を何も講じなかった→
会社内でクラスターが発生し、複数人が罹患→
罹患していない他の従業員も休業を余儀なくされた
というような場合は、世間でこれだけ感染予防しようという動きが広がっているにもかかわらず自分の会社では何も施策を講じなかったという点で使用者側に起因する経営、管理上の障害があると言えそうです。このような場合には、休業手当は支払う必要がある、ということになります。
なお、先ほどの判例では、労働組合がストライキを起こしたことによって一部航空機が欠航となり欠航便に関連する従業員が労働できず休業となった、という事実関係の元で、原審では同ストライキの原因は会社側にあるとして「使用者の責めに帰すべき事由」を認めたのに対し、最高裁は反対に、同ストライキは組合の主体的判断と責任に基づいて行われたと判断し、「使用者の責めに帰すべき事由」はなかったとしています。
つまり、休業の直接の原因となったストライキは労働者側によって引き起こされたものですが、だから「使用者の責めに帰すべき事由」ではない、ということではなく、そのストライキを招いたのに使用者側に起因する経営、管理上の障害があったかどうかで判断したということです。
使用者側に起因する経営、管理上の障害があったかどうかは法的な評価・判断が必要となり、難しい点もあると思います。
判断に迷われた際は、弁護士に相談することをお勧めします。